“Freya of the Seven Isles”

設楽 靖子

 “Freya of the Seven Isles"を読み解くにあたって参考になるようなexplanatory notesが付いた版は、つい最近まで1点もなかったのではなかろうか。とすれば、理由は、この短篇を収めた短篇集’Twixt Land and Seaは“The Secret Sharer”と他2点を含んでおり、その中でもっぱら“The Secret Sharer”が単独で取り上げられて何点もの研究書が出版されてきたゆえに、短篇集全体としてOxford World ClassicsやPenguin Classicsとして刊行されることがなかったからであろう。その意味で、“The Secret Sharer”の影に隠れがちな小品ともいえる。

 この「小品」をあらためて読み直せば、物語は時系列で展開しながらも、個々の出来事については誰を情報源にしているかについて謎解きの演出が施されており、語りのテクニックが注目される。また、19世紀末のシンガポール近海の島を舞台であり、当該地域の地政学的特徴であるイギリス・オランダの勢力 拮抗が書き込まれている。この二大勢力の間隙に置かれた「デンマーク人父娘」という微妙な関係は、Freyaという北欧神話の女神の名がタイトルに置かれることで、その勢力地図がより際立つと考える。

 そうした要素を含むこの短篇の精読にあたっては、背景事情を解説したexplanatory notesが待たれていたはずである。その意味で、コンラッド作品の定本化をめざして順次刊行中のCambridge UPから2008年にJacques Berthoudらを編者として’Twixt Land and Seaの巻が刊行されたことで、有効な補助道具がやっと提供されたことになる。たとえば、この物語の物語年代を特定する要素はテクスト中には何も見当たらないが、1ヵ所、年代を明確に示す鍵が埋め込まれていることをnotesは教えてくれる。よって、この短篇を読む際「地図と年表」が有効と考える読者(筆者を含む)には、このCambridge本は有り難い。とは言うものの、この有り難いはずの定本は、必ずしも評判が良くないようである。定本として広く流通させるには不必要に分厚く(ここでもまた、“The Secret Sharer”を含んでいるからという理由がある)、また解説に重複が多いようで、惜しいことである。

 

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