King Leopold’s Ghost: A Story of Greed, Terror, and Heroism in Colonial Africa(1998)

第9章

“Meeting Mr. Kurtz”

Adam Hochschild 著

設楽 靖子

 この本は、1890-1910年をピークとするコンゴ河流域での大規模な流血・惨劇について、その歴史的経緯を辿り、実態に迫り、加えて、このホロコーストとも言える事件が、なぜヨーロッパ(および他地域)の人々の共通の記憶として残されてこなかったかを検証した本であり、カナダのLionel Gelber Prizeというノンフィクションの著作に与えられる賞を受賞している。

本書は歴史・国際政治の分野の著書ではあるが、コンラッドのHeart of Darknessを“probably the most widely reprinted short novel in English”と位置づける著者は、この中篇小説を自著の中核の一つに据えて、そのテクスト細部に読み取れるノンフィクション要素を重要な考察対象としている。
 また、本書は、1897-98年にイギリス人Edmund Dene Morel がアントワープの港でコンゴからの積荷の出入りを不審に思う場面から書き起こされており、フラッシュバックの手法を含め、魅力的な語り口でもある。

今回の読書会では、以下2点を中心に検討した。

1.この本がコンラッド研究に具体的に寄与している点は、Kurtzのモデルと考えられる人物として、Captain Leon Romなる人物を新たに
  提示したことである。
  Hochschildによれば、ベルギー人Romは、コンラッドが1890年8月初旬にLeopoldvilleに到着したときのstation chiefであり、Romの
  名前がコンラッドの日記に記されているわけではないが、コンラッドがその名前を現地で耳にしていた可能性は高いと考える。また、
  Hochschildは、1895年にはRomは奥地Stanley Fallsでのstation chiefであり、同年その地を訪れた某イギリス人探検家 ジャーナリス
  トが、Romの住家の花壇にいくつかの人間の頭部が飾られている(“as a decoration round a flower-bed in front of his house”)とい
  う異様な光景を伝えていること、その報告文はCentury Magazine(1897年9月)とThe Saturday Review(1898年12月)に掲載されてお
  り、後者の日付はコンラッドがHeart of Darknessの執筆を始めた時期とほぼ一致していること、さらにRomは「絵を描く」人物であった
  こと、などを指摘している。
   このRomがKurtzのモデルの一人と見なし得るというHochschildの指摘は、Oxford Reader’s Companion to Conrad (2000)の
 “Kurtz”の項目でも言及されている。

2.自身のコンゴ体験について、コンラッドはその体験の直後でなく、10年近く経ってから作品化を試みた。そのタイミングは、コンゴでの
  実情ないし事件性がイギリスのメディアに取り上げられ始めた時期と呼応していることから、この「時差」は、コンラッドが、あるいは
  Heart of Darknessという作品が、「時局」に反応したものであることを示唆すると考えられよう。

 

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