短編“The Return”と映画Gabrielle

設楽 靖子 記

 “コンラッドの短編"The Return"は、近年Gabrielleというタイトルでフランス語で映画化されている(仏・伊合作 2005)。本邦未公開で、入手可能なDVDは海外版のみであるため、国内ではあまり知られていないが、パトリス・シェロー監督、イザベル・ユペール(1995年にセザール賞での最優秀女優賞)という存在感ある配役による、90分の映画である。

 今回の読書会は、原作を翻訳・出版した社本氏に作品解説をお願いしたうえで、この映画のDVD鑑賞会でもあった。

 原作は、「妻が家を出て男のもとへ走りかけるが、取りやめて帰宅した」という出来事に対する夫の反応という形で展開するものであり、当然、映画も室内での2人芝居を中心に進行する。大きな相違点は、映画のタイトルがGabrielleとあることから想像されるように、原作は「帰宅 the return」という妻の行為に焦点が当てられているのに対し、映画では妻Gabrielle側の思考・感情およびその表出が強調されていることである。つまり、原作では夫のAlvan Herveyという名前は頻出するが、妻に名前は与えられておらず、皮肉にもMrs Alvan Herveyと呼ばれるのみである一方、映画ではGabrielleという名を持つ女性個人に焦点があてられている。その重要性は、妻役に当代フランスきっての名優を配していることからも窺われる。

 “また、映画では、妻が同行しかけた「編集者」なる人物が冒頭で具体的に登場し、Gabrielleの行動がより具体的に可視化されている、夫婦の年齢が原作で想像されるよりも上である等々、原作との相違点が挙げられる。これらに注目することで、作品の読み直しの一助ともなるであろう。

 原作についての解説は、社本訳『万策尽きて ほか1篇」(リーベル出版 2006)に詳しい。 今回はコンラッドの"The Return"とトルストイの「イヴァン・イリイチの死」(1886)と組み合わせて読む予定であったが、時間の制約で見送った。改めて機会を設けたい。

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